ABSは、前述したように車輪のスリップ率を理想スリップ率 Si 付近に制御するものであり、スリップ率を測るために車両速度 V は計測不能であるので、基本的入力信号として車輪速信号 Vw を用います。したがって基本的に四つの車輪速のうち、なるべく速いものを選択し(セレクト・ハイの原理と称する:すなわち制動時は最速のVwが車両速度に近いという原理)、これを基に疑似車速信号Vrを作成します(図2〜図3)。
疑似車速信号 Vr は、4輪同時にスリップが大きくなった時にも車両速度 V に近似できるように、四つの車輪速信号 Vw が同時に減速する時(図4のt4〜t7)は、所定の傾きよりも大きい傾きはとらないように設定されています。例えば、乾いたコンクリート路で生じる車両の減速度より若干多めに -1.2Gとします。ここでGは減速度の単位で、-1.0Gとは車速が1秒間に約35km/h減速する事を示します。また車輪のスリップ率のみで制動トルクの増加・減少のみのコントロールをすると、制動トルクの変動トルクが大きくなって、性能や音振が劣化するので、既存のABSのほとんどは、車輪の回転加速度も監視して、車輪回転加速度の変化で制御トルクを一定に維持したり、ゆるやかに増加・減少する機能も持っています。