それでは図4にしたがって現在主流となっている制御の時間変化を追ってみましょう。時刻t1から急制動したとします。時刻t4で車輪の減速度合いが大きくなると、疑似車速 Vr が車輪速信号 Vw から離れ、以降、スリップ率判断の基準となります。また、時刻t4付近で車輪の減速度が大きくなると、それ以上の制御トルク上昇を抑えるため、制動トルクを一定に維持します。時刻t5で車輪スリップが設定値に達すると、制動トルクを減少して車輪を加速させ、スリップ率を減少させようとします。時刻t6で車輪が加速を始めると、それ以上の制動トルクの減少を抑えるため、制動トルクを一定に維持します。時刻t7にて車輪のスリップ率が小さくなってくると、再度制動トルクを増加させて、ブレーキ時停止距離の増加を防ぎます。なお、この制動トルクの増加は、持続する車輪スリップ率の急増をおさえるため、ゆるやかに行われます。以上のサイクルを停止まで繰り返すことにより、車両は適度なコーナリング・フォースを維持しながら、理想に近い制動力を保ちつつ、停止に至ることが可能となるわけです。図3に、セレクト・ハイ原理による疑似車速 Vr の作られ方を示します。前述した制御が各車輪ごとに行われる結果、各車輪ごとの制御サイクルのズレにより、疑似車速信号 Vr ははぼ車両速度 V を近似することができます。