3代目のジャグジーインテリア。思いついたのは、まさかのお風呂?
進化ではなく純化を求めた3代目
「ゆるさ」についての記事で、「純化」というキーワードに辿りつきそこから「ゆるさ」というコンセプトにたどり着いた、と3代目キューブがコンセプトにこだわったことをお伝えしました。

ここではその3代目の象徴の一つでもあるインテリアをデザインした、早川忠将の話に耳を傾け、どのように作られていったのかをもっと詳しくお伝えしましょう。

早川は2代目で確立したキューブらしさを「進化ではなく純化」、つまり、継承しさらに発展させようと3代目のデザインに取りかかりますが、まずはどのようなことを意識したのでしょうか?
キューブユーザーのシートに対するこだわりを見出した早川。
このCGイメージもそんな試作のうちの一つだ。
インテリアの主役はシート
「マイルームのような感覚をベースに、コンパクトだけど広いということを意識しました」と、早川は当時を振り返り、純化の過程を話します。

2代目が持っていた、「マイルーム」のような車という魅力を引き継ごうとしていくのです。そこで最初にインテリアの主役に据えたのは、ズバリ、シートでした。

「キューブのユーザーで『この車じゃなきゃダメ』という人はシートにこだわるのだろうと思いました。純化させる行程の中で、まずシートファーストだろうと」

プライベートな空間で、居心地がいいキューブだからこそ、なるほどシートが大事というわけ。ここから早川のシートへの情熱がさらに高まっていきます。
細かく縫い込まれた座面にはスプリングが内蔵されているためほどよい反発力が快適な座り心地を実現している。
コンパクトカーらしからぬ高級シート
と、ここまで読んでキューブのシートのやわらかな感触とやさしい肌触りを思い出してくれた人もいるかも知れません。実は、キューブに使われている「縫製シート」は、フロントシートの座面にスプリングを内蔵した高級品なんです。

コンパクトカーではスポンジにシートを張り込んで成形するシートが使われることが多いですが、キューブはワンランク上のシートを使っているということになります。
「普通コンパクトカーにこんな高いシートは使わないんですよ。それでもシートファーストで高級車と変わらないようなシートにしたいですってまず言ったんです」そんな、早川の想いが叶い、縫製シートが採用されることになりました。 それでも、高級なシートにしたことだけがキューブ独特のリラックス空間につながっているわけではないようです。

そう、3代目キューブのデザインは「ジャグジーカーブ」と呼ばれている、ゆるやかな波打つ曲線のデザインが特徴的。あの不思議な形はどうやって生まれたのでしょう?
とにかく空間を広く、だからこの形
早川によれば、最初のアプローチはかなり建築的な考え方から生まれたそう。この段階ではジャグジーという言葉はまだ出てきません。

「キューブはなんといってもコンパクトだけど広いのが特徴、まずデザインをする前にどれだけ広さのために構造体をえぐれるのかをデータ上で探すことから始めたんです」と、あくまでデザインではなく、広さを優先してインテリア空間の形を考えたのだと、早川はいいます。

「構造的に『えぐれるところ』と『えぐれないところ』を線で繋いでいくと、やっぱり、でこぼこするので、でこぼこした箇所をとりあえずキレイになるように表面的に繋げていったらどうなるんだろう、って試した結果がコレになったんですよ」

こうして3代目キューブの内装の形が決まったというわけ。そしていよいよ「ジャグジー」というアイデアが、早川の頭に生まれます。
ジャグジーの形状から着想を得たという3代目キューブのシート。
ジャグジーでビールを飲みながら
「普段リラックスできる、嘘偽りのない気分になれる空間ってどこ?って、そりゃ風呂だよねという話は前々からコンセプト論議の時に出ていました。それでもジャグジーというアイデアにはまだ行き着きません。」 と、早川。実は、このアイデアは早川が悩みに悩んだ末にひねり出したものだったそうです。

「ちょうど、何をキーワードにスケッチするべきか迷っているときに、たまたま沖縄に旅行に行ったんです。そのときにビール飲みながらベランダのジャグジーにつかって海をボーっと眺めていたら『ああ、なんかこの感じでいいじゃん』っていう(笑)」

本物のジャグジーに入りながら「ジャグジーのようなインテリア」にたどり着き、早川は休み明けにこの案を提出します。そしてそのまま3代目キューブのインテリアデザインになったのです。
早川のデザインしたルーフの波紋。3代目キューブの象徴的なデザインとなった。
ジャグジーだからこその「波紋」模様
この「ジャグジー」というイメージは、ディテールにも大きな影響を与えることになります。

「最初は消臭天井をやってみるか、って話になっていたんです。残念ながら結局ボツにはなったのですが、断面を増やせば消臭機能は増えるじゃないですか。だからとにかく断面を増やそうっと思って、それがそもそものきっかけとなって天井に波紋をデザインすることになりました。まぁきっかけはジャグジーだし、水滴が落ちたら波紋となって広がって、みんなとつながっていく、というイメージにもつながるなと」

画期的な車の天井へのデザイン(スタイリッシュガラスルーフ非装着車の場合)が、こうして誕生したのです。そして波紋はほかのディテールにもデザインされることに。スピーカーやドリンクホルダーなど細かなところに、どんどん波紋が広がってデザインされていきます。
最後に早川は波紋というイメージについて、こんなことを語ってくれました。

「波紋って、例えば海に水滴をひとつポチャンと落としたらやがて波となってどこか知らない国まで届いたりするのかなとまぁイメージの話ですけど。3代目を海外で販売したいという話はあったので、だから波紋というデザインはいいんじゃないかなと」

キューブ初の海外販売モデルとなった3代目。小さなインテリアの模様に至るまで、開発者の想いを乗せ、世界に向けて作られていたことがよくわかるエピソードですね。

そして、3代目キューブデビューから10年経た今も、このジャグジーインテリアと波紋模様は世界中のユーザーに愛されています。