マスターテクニシャン File:19

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慎ましく、丁寧に

内実ともなって

柔らかい笑顔で迎えてくれた丸田さんは、その経歴を「あまりできる方ではなかったので」と控えめに語る。マスターテクニシャンになる道のりへのスタートも、静かなものだった。

「現場での技量を身に付けていなければ、資格だけあってもダメだと思い、最初は資格試験には手を出さないと決めていました。ほかを見ずに、目の前の仕事を一つひとつこなしていこう、と。机上の知識だけで試験を通ることができても、内実伴った資格でないと意味がないと考えていたんです。

年月が過ぎるうちに、周りからそろそろ資格にチャレンジしてもいいんじゃないか、と言われるようになりました。それでも、何度も何度もプッシュされて、やっと資格取得に気持ちを向けることができたんです。自分からどんどん進むタイプではありません。けれど、今はあのとき背中を押してもらえてよかったと思えます」

しかし、慎ましく進む彼の眼に、整備士としての階段はしっかり見えていた。

「整備士になろうと決めたときから、国家1級整備士の資格は何がなんでも取ろうと思っていましたね。整備をやっている以上、絶対にほしかったもの。この気持ちは資格に挑戦し始めたときにぐっと強くなり、マスターテクニシャンの資格も次々と目標になっていきました。資格取得のための勉強をしたおかげで技術を磨け、整備一直線だったところから、接客応対の分野に進むこともできたんです」

聞く技術

丸田さんは、整備を15年経験した後、工場長を経て、現在、上越店でテクニカルアドバイザーをしている。その中で『聞く技術』をもっと洗練させたいと思うようになったという。

「聞く技術とは、お客さまが伝えたいことをしっかりキャッチする力でしょうか。お店にいるすべての人に聞く技術がないといけません。

運転中に下回りから音がする、と来店されたお客さまが記憶に残っています。そのクルマを整備士が何度見ても異常はなく、よくわからない。何がいけないんだと困り果てて、お客さまにもう一度話を聞きに行きました。すると、どうやら車線を踏むと音と振動が出るセンターラインのしわざだったのです。自分の至らなさを痛感しました」

聞くというのは、耳を傾けるだけではない。目で見て、手で触れて、体を動かすことも、含まれるという。

「故障や不具合はお客さまと一緒に確認します。たとえば、音や振動。感覚は人それぞれなので、言葉にしにくいものもたくさんあります。お客さまが指している音と私が理解した音が違う、ということにならないように、整備を始める前も、終わった後も一緒に確認するということを大切にしています。

具体的な整備はなかなかお客さまの目には見えないですが、できるだけ部品を見ていただきたい。ですから、リフトで上げた車両で説明することもあります。知らないところで直して終わると、わからないままになってしまうので。直ったところも一緒に確認していただければ、ずっと安心して乗っていただけると思います」

本当の意味

『お客さまの立場に立つ』という言葉をよく耳にするようになった。フロントで要望を聞き、保険の対応などもする丸田さんは、この大切さを肌で感じている。

「『お客さまの立場に立つ』という言葉は知っていても、本当の意味がわかっていない、と若手を見ていて感じることがあります。確かに漠然とイメージして、感覚や気持ちを理解するというのは難しい。

しかし、お客さまと話す機会が増えると、困っている状況やそのときに望まれているものがわかってくるんですね。実感としてわかってくると、整備の仕方が変わります。正確さやスピードにも違いが出ますが、何よりも、整備に粘りが出る。なんとかしなくては、という思いが力になり、安心や納得を感じられる整備ができます。時間が必要なのかもしれませんが、それをわかる後輩を育てたいと、今思っています」

フロントと整備工場、事務所を行き来して、お客さまとその愛車に向き合っております。
お客さまの快適なカーライフのために、上越店でお待ちしております。