保育園や幼稚園などで使われる、教材教具を販売する三浦義信。彼の仕事と「車に乗ること」は、切っても切り離せないものだ。三浦が扱うのは、絵本や画用紙、クレヨン、積み木、おもちゃなどから、教室の机や椅子、給食の食器、園児服や災害時の非常食までと多彩。また、園庭などに設置する滑り台や大型総合遊具なども受注する。
早朝。三浦はキャラバンの荷室を納品する品物で一杯にし、一日に25〜30ヶ所の得意先まわりに出発する。夜までに、毎日平均約250キロを走破する日々だ。「お昼はおにぎりなどを車内でとる生活です。決めたルートにならって、10分走っては納品、また10分走って園にご挨拶。その繰り返しで一日が暮れます」と三浦は苦笑する。
三浦の会社は、青森県八戸市にある。幼児向け出版業や教材教具販売大手のチャイルド本社の代理店のひとつだが、その中で長年、全国トップクラスの業績を上げてきた。社を立ち上げて約25年。得意先の開拓や発注業務、倉庫の管理まで、夫婦二人三脚で担う。しかし、業績が安定するまでの道筋は決して平坦なものではなかったという。
三浦は、もともと建築業などに携わり、東京ではコンピューターを使ったCADシステムの開発の仕事に就いていた。20代半ばの頃、事情により青森に戻った際、知り合いだった先代の保育用品販売を手伝い、後にすべて引き継ぐことに。しかし、その事業には多くの負債も付いていた。そんな状況を「大丈夫。なんとかなるよ」と盛り立てたのは妻の和美。妻に背中を押され、三浦は休みなく、毎日働いたという。
「とにかくお客様のためならなんでもやりました。『園のガラスが割れた』と言われれば、すぐ替えに出かけました。先生から夜中に『パソコンの電源が消えない!』と電話があった時は説明してもダメだったので、電源を消しにだけ車で40キロの道を馳せ参じたこともあります」
そのうち、三浦の誠実な対応は多くの得意先に信頼され、取引数も増えていった。「今では、園の財務ソフトの使い方や理事会への提出書類の書き方、就業規定の作り方など、園の運営のことはほとんどわかります。常に『できない』『わからない』を言わないように、様々なことを勉強してきました」。三浦の得意先のひとつである「こどもの城保育園」の野澤俊雄園長も、「三浦さんは色々な知識をもっているので、いつも信頼できる提案をしてくれます」と太鼓判を押す。
前職で建築業界にも通じている三浦は、多くの園の増改築も引き受ける。「技術畑だった環境とは別の世界への転職で、それまでの知識が全て無駄になったと思って悲しかったんです。でも、こんな形で活きてくるとは。人生に無駄ってない。今は、子供の人格や人生を作るお手伝いをする、未来へつながる仕事。だから楽しいんです」
一日中運転を続ける三浦にとってキャラバンは、「事務所のような存在」「運転席にいる時がいちばん落ち着く」のだという。運転をしながら、仕事のことや会社の今後など、自由に考えられる空間が気に入っている。
三浦にとって、プロフェッショナルとは――。「自分に妥協せず、お客様の要求を高いレベルで叶えられる、そういう完璧な存在になることですかね。ただ、完璧はそう簡単ではなく……青森の春は運転席からよく虹が見えるんですが、完璧とは、虹のようなもの。完璧だと思っても先にまた違う課題が出て、追いかけると逃げていきます。ただ、常に完璧を目指すのがプロですかね」
1964年6月9日
(青森県八戸市)
職種:保育用品販売業
職歴:29年
会社名:有限会社八戸チャイルド社
納品先によってサイズが異なる保育用品を都度収納できるよう、できるだけ仕切りを作らないように利用。オフの日には自転車を積み込んだりと用途を使い分けている。