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モザイク模様で描き出す世界でたった一つの夢
日常を、装飾する
日常を、装飾する
 コーヒー、音楽、釣りに陶芸。周りに流されることなく、遊びも仕事も、本当に好きなことだけをやってきた。タイル張り職人、吉野明宏。自分らしさをとことん突き詰めるそんな吉野の人生観は、その道一筋に生きる現場職人たちの中でもひときわ異彩を放っている。38歳になった今、ますます人生には興味が尽きないことだらけだと話す吉野に、ものづくりへの熱い想いを聞いてみた。
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「高校を卒業して職を転々とした後、親父がもともと左官職人をしていたのもあって、タイル張りの道を選びました。生まれてから、ずっと富士市に暮らしています。豊かな海があって、日本一の山がある。決して都会ではないですが、この街に不便を感じたことは一度もありません」

 退屈な日常を自らの力で打破し、人生を鮮やかに装飾する。そんな吉野のスタンスは、タイル張り職人の道を選んだ今も昔も、変わることがない。週末になれば、気のおけない地元の仲間たちと駿河湾で海釣りをしたり、日がな一日好きな音楽を聴いてのんびりと過ごす。そうした時間が、何より吉野の仕事に活力を与えてきた。
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「何事も、はみ出したり、ずれたりしているくらいが個人的にはちょうどいいんですけどね。でも僕は、作家ではなく職人。タイル張りの依頼があればそういうわけにはいかないんです。寸法をmm単位で計算して加工する、扱う人次第では良くも悪くもなるような、細かくて地味な仕事ですよ」

 同時に、そんなタイルの飾りっ気ない素直なところが好きで、この仕事を続けている。人の手で作っているからこそ、常に完璧ではない。それこそがタイルの『良さ』であり『味』なのだと、自ら手がけたタイルに触れながら吉野は話す。
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タイルの魅力
タイルの魅力
 昨今の頻発する地震の影響もあって、静岡では、古くなって浮いてきたタイルの落下を防いで補修する依頼が増えているという。

 そもそも中東や東南アジアの国々では古くから利用されてきたタイル装飾。しかしながら、その加工や張りつけ作業は簡単なものではない。
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 今でこそ、粘着性のシートに張りつけられ加工しやすくなったタイル張りだが、元来、一枚一枚を接着剤やモルタルによって張りつける作業は非常に手間がかかり、高い技術が求められてきた。

 日本の場合では、外壁タイルが、特にマンション需要が高まったバブル期に『あこがれの装飾』として盛んに建築物に用いられてきた経緯もあって、その老朽化に伴う補修作業も、今の吉野の大切な仕事の一つになっている。
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「正直、タイルもレンガも、減っていますよね。でも、やっぱりそこに良さはあって、メンテナンスにお金がかからないし、汚れにくくて長持ちする。それに、やっぱり華やかで、おしゃれに見えるでしょ? タイルが本当に良いものだと思っているからこそ、自分の仕事でその良さを少しでも伝えていきたいんです」
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想いを『かたち』に
想いを『かたち』に
 10年前の引越しを機に思い立って電気釜を購入し、オリジナル模様のタイルを焼き始めたという吉野。先生はなんと、隣に住んでいる陶芸家の地主さんだ。

「以前タイへ旅行に行ったとき、若い職人が未だにノミで石を打ちつけて削り出したタイルを見事に張り合わせているのを見て、羨ましく思いましたね。いつかは自分も焼き上げたオリジナルのタイルを、地元の小さなお店やお客さんの家で使ってもらうのが夢なんです」
 もともと一人が好きだった吉野に、タイル張りの仕事はぴったりだった。仕事中も、好きな音楽を聴きながら一枚一枚タイルを張り合わせていると、あっという間に夕暮れになっていることさえある。

「天気が良くて、仕事する気にならない日だってありますよね。そんなときは、土を触ったり、タイルの模様を考えたり、好きなことをして過ごします。いつかは現場を離れ、夫婦で餃子のお店をやりたいね、なんて妻と冗談交じりに話しているんです。もちろん、一面手作りのタイルを飾ってね」
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——— そんな吉野にとって、『プロフェッショナル』であることはどのような意味を持つのだろうか。

「タイル張りは、人の目につく部分を任されている仕事。プロである以上は、その責任とプレッシャーを常に感じながら、お客さんに喜んでもらえるものを作らなくちゃいけない。結果的に、それを自分が楽しみながらやれたなら、もう最高ですよね」
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1978年07月04日
(静岡県富士市)

職種:タイル張り職人

職歴:18年

運搬に注意を払わなければいけないタイル材や工具、セメントやモルタルなどをいれた資材バケツを両サイドに取り付けられているフックでしっかりと固定。走行中でも荷室を安全に保っている。