マスターテクニシャン File:36

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「縁」をつなぐ

憧れの存在

浜松日産 和田中央店のマスターテクニシャン・宮本さん。彼の下へ遠くからさまざまな人が会いに来る。まずは卒業した日産自動車大学校時代の先生だ。

「学生時代は学校が好きで、オープンキャンパスを手伝ったり、先生とよく話し込んだりしていました。遠方から浜松へいらっしゃることがあると、店舗に立ち寄ってくださいます。店舗研修の指導で先生とばったりお会いすることも。卒業して何年も経っているのに、今でも気にかけて、激励の言葉をいただけることに感謝しています」

大きく目立つマスターテクニシャンのバッジ。

大学校の先生たちは、マスターテクニシャンの資格を持った自慢の教え子として宮本さんの活躍を学校で語る。その話に目を輝かせた後輩たちは、憧れの『宮本先輩』を訪ねてくる。

「気恥ずかしくうれしい気持ちになります。毎年1名は私の名前を知って入社してくれる後輩がいます。浜松日産にはブラザー制度があり、先輩スタッフは新入社員とペアを組んで1年間みっちり指導します。そのときには力と気持ちが入ります」

そう語る宮本さんの憧れの存在は。

「私が整備士になったのは父が整備士だったからです。大型車専門の修理をしていた父に小さい頃よく整備工場へ連れて行ってもらいました。自分の背よりも大きなトラックのタイヤに乗せてもらったことが記憶に残っています。もうひとつ鮮明に思い出されるのが、手早く修理をした父の姿です。馴染みのお客さまが急ぎ訪ねてこられたところに居合わせました。ささっと修理を終え、クルマを引き渡しながら説明する父。その様子が心に刻まれて、将来を考えるときには整備士以外には興味はありませんでした」

日産車ファンだったご両親とともに、幼少の頃から日産のお店に何度も通ったと話す。クルマ好きの宮本少年に優しくしてくれた『日産のお兄さん』は、「今は上司」だというから、縁とは不思議なものだ。

名倉工場長(写真右)は、宮本さんを浜松日産の高い技術とポジティブな整備士像の発信源だと紹介する。
彦坂TS(写真左)は、整備士歴5年。彼女から学ぶことは多いと宮本さんは話す。

メカニックへの信頼

宮本さんは異例の早さでマスターテクニシャンの資格を取得した。1つも落とすことなく、ストレートにステップを登りつめたのだ。まっすぐ取り組む姿勢はどこで身につけたのか。

「父の影響が大きいです。勉強をおろそかにするな、と口癖のように言われていました。それでも、机に向かうのが苦手だったのですが、整備のことになれば不思議と集中して覚えられます。勉強することで見えるものが変わり、わかることがぐんと増える感覚が好きです」

黒が際立つ整備服はNISSAN GT-R整備の有資格者の証。後ろはNISSAN GT-R2017年モデル。

そんな宮本さんにはお客さまのファンも多い。彼を指名し、店舗を移ればついてきてくださるお客さまがいる。何が人を惹きつけるのだろう。お客さまと話をするのが大好きだと語る言葉から、彼の魅力がわかる。

「整備をしたいと思ってついた仕事ですが、お客さまとお話させていただけることにとてもやりがいを感じました。おもしろい、楽しいという気持ちもついてきました。それはお客さまにとって本当に必要なメンテナンスをご案内できるようになってからです。『私自身が乗るとしたら?』という視点で、おクルマを見ることから始めます。お客さまにも一緒に見ていただいたり、整備の種類を説明したり、お客さまの大切な愛車ですから、いつも納得していただきたいという思いがあります。
特にお困りごとはできるだけ早くキャッチしてさしあげたいと思っています。それがメカニックへの信頼だと思うのです。お客さまにプロの判断をすぐに伝える。整備に取りかかれない状況でも、まずはおクルマを見て考えをお伝えし、安心していただきたいと考えています」

宮本さんにこれからの目標を聞くと、NISSAN GT-Rを極めたい、整備技術を極めたいと話す。すでにNISSAN GT-Rの整備資格も、電気自動車の整備資格も持っている。そこにとどまらず、「新しいやり方に出会いたい」と、彼は貪欲に技術を求めていく。そんな彼の周りに人は集まるのだ。

チームで挑む勝負の場

宮本さんの2016年夏は、秋に行われる日産サービス技術大会に向けた特訓漬けで過ぎた。日産サービス技術大会とは、サービススタッフが整備や応対の技術を競う大会で、選ばれた精鋭の整備士だけが代表選手として出場できる。日産整備士なら誰もが出たいと願う華やかな戦いの場だ。宮本さんと新人テクニカルスタッフ部門で出場する選手に、技術を磨くための新車が2台も提供されたことが、出場者への期待の高さを物語っている。

「特訓は学科の勉強から始まり、クルマを使った整備へと進めていきます。用意していただいた新車の部品をすべて取り外し、どこに何が付いているのかということを手でさわり、目で見て実感しながら学びます。貴重な体験をさせてもらっていると、クルマに向かうたびに感じます」

特訓のために外した部品。

宮本さんが出場する部門では、故障診断の技術を競う。

「エンジンがかからないクルマをエンジンがかかるようにするまでを競います。その途中には、エアコンの不具合やスイッチの表示が出ないトラブルなども設定されていて、それらを一つひとつ修理していき、コンピューター診断の内容を保存するということまでを含めて制限時間内でクリアしなければなりません。そのやり方も自己流ではポイントがもらえず、整備要領書というマニュアルに沿った正しいやり方を身につけている必要があります。答えにたどり着くまでの過程が大事なのです」

トレーナーの袴田さんとともに。

練習とは一体何をするのか。特訓にはたくさんの人が関わる。

「同じマスターテクニシャンで、難解修理を専門にする整備士がトレーナーをしてくれます。彼がクルマを使った問題を用意し、それに私が挑みます。もう投げ出したいと何度も思うほどの難しさ。時間がかかりすぎて、トレーナーに置いていかれてしまうこともありますが、そこはプライドと意地でなんとか答えを探しあてることを繰り返しています。

もうひとつ、別の種類の特訓があります。それは大舞台に慣れるための公開練習です。50人ほどが問題のクルマを取り囲み、その目の前で作業をします。注目された中の作業はとにかく緊張しますが、その中で実力を発揮するための大事な経験です」

2016年は地区予選。新人テクニカルスタッフ部門や女性テクニカルアドバイザー部門などに出場する仲間とともに、チームで勝ちたいと宮本さんは話す。全員で全国大会への切符を狙う。宮本さんの技術への探究心は、日産サービス技術大会にかける意気込みにも、マスターテクニシャンへの道にもあらわれていた。

これからも日々、技術を磨き続け、お客さまのために全力を尽くします。