進藤さんがクルマに興味を持ったのは幼い頃、ご両親に連れられ、いくどとなく通った近所の整備工場だった。
「私の実家は農家です。両親は農業用車両や農機具の修理を近くの整備工場にお願いしていて、小さな頃からよく親について行っては、工場のすみで整備風景を眺めていました。タイヤが取り外されたり、クルマが分解されたりと、小さな工場で繰り広げられるダイナミックな整備の世界に、子どもながらに心を奪われたのを覚えています」
小学校に入る前の、その整備工場での経験を出発点に、進藤さんは順調にクルマ少年の道を歩み始める。
「私には兄がいます。兄は走るクルマが好きでした。でも私が好きなのは、クルマそのものだったのです。小学生時代はクルマのプラモデルをひたすらつくり、やがて中学生になると、実家の農機具の分解や修理にはまりました。とにかく機械が好きで、どうやって組み立てられているのか、どんな仕組みになっているのか、興味が尽きませんでした。そうして、農機具にまで手を出してしまう私に、父はなにも言わず好きにやらせてくれました」
いつしかクルマの仕事につきたいと胸に秘めながら、クルマひと筋に成長した進藤さんは迷わず整備士の門を叩いた。
大好きな整備の世界に入った進藤さん。それまで知らなかった整備士の仕事のさまざまな側面を知ることになる。
「整備士の道を進むことが決まったときは、これからはクルマのことばかりを考えられるとうれしくなったことを覚えています。配属された工場には素晴らしい技を持った憧れの先輩方がたくさんいました。先輩のいいところを早く吸収して、整備の腕を上げていこうと考えました。
でも、いざ整備士としての仕事を始めると、自分が想像していた世界とギャップがあることに気づきました。“クルマと向かい合う”ものだと思っていた整備士の仕事は、実は“お客さまと向かい合う”ことが非常に大切だったのです」
お客さまのクルマを整備するということ、お客さまが整備の終わりを待っていてくださること。「お客さま」の部分が抜けていたと悟った進藤さん。“気づき”を得て、少しずつ視野を広げていった。
「考え方を切り替えるのに、少し時間がかかったかもしれません。お客さまにお会いし、他の店舗の整備士とも交流を持つうちに、お客さまからお話をうかがったり、整備内容をご説明したりすることの大切さを感じるようになりました。少しずつ経験を積み、徐々に整備の外の世界も見えるようになってきたのです」
整備するクルマと自らの手元ばかり見ていた進藤さんは、顔を上げ、周りを見渡す。そこからは、さらに貪欲に、整備士としてのすべてでトップを目指したいと考えるようになった。日産整備士の難関資格であるNISSAN GT-Rや、リーフの整備資格、そしてマスターテクニシャンHITEQなどを次々と取得していったのだ。
「小さな頃からの機械好きですから、新しい技術を見ると興味をそそられて、夢中になってしまうんですよね。資格試験は、子どもの頃の機械を触りたい、知りたいという気持ちと同じ感覚で熱中しました。農機具を分解していたあの頃と変わらないかもしれません」
今では他の整備士への指導も担当する進藤さん。若かりし頃にとまどっていたお客さまとのやりとりも、楽しみになっているという。
「お客さまと直接お話をして、クルマの整備をさせていただくというのは、この仕事のやりがいのひとつだと思っています。
やりとりのなかで特に気を使うのは、問診です。不具合についておうかがいしながら、お客さまが気づいていることと、逆に気づかれていないことを探っていくのです。そのどちらも丁寧に確認することが、問診の大切な第一歩です。
そして、おクルマを使っている状況やそこで感じていることをできる限り想像して、イメージを共有することを心がけています。お客さまとコミュニケーションがうまく取れて、イメージの共有の完成度が高いほど、修理もスムーズにいき、早くおクルマをお返しすることができるのです。
不具合のなかでも特に難しいのは音に関することです。昔と比べてエンジンが静かになったぶん、お客さまからの音に関するご相談は増えています。お一人、お一人で感じ方の違うものですので、一緒に走って確認させていただくこともあります。これもイメージを共有する方法のひとつです。こうして、正しく確認することが、そのあとの“いい整備”につながっていくと思い、力を入れています」
整備士として仕事をしているなかで、一番喜びを感じるのは「お客さまが納得して、喜んで帰っていただいたとき」と笑顔で語る進藤さん。小さな工場のすみで整備風景に心ときめかせた少年は、今、真のプロフェッショナルとして花を咲かせている。
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