「整備士になって2~3年は、ずっと私には整備士の仕事は向いてないんじゃないかと思っていました」
インタビューの最初から、率直に入社当時のことを話してくれた木村さん。特待生で日産の自動車大学校に入り、整備士になったものの、始まりは決して順風満帆とは言えなかった。
「手先もそれほど器用でないんです。それに自分でも頭がちょっと固いなと思うところもあって。入社当初は先輩から怒られてばかりでした。クルマが好きで整備士になったはずが、果たしてその道が正しかったのかと不安もありました。それでも、目の前のできることをやろうと、資格試験には早くから挑戦しました」
地道な努力を続け、資格を積み重ねた木村さんに転機が訪れる。店舗のインストラクターに抜擢されたのだ。
「インストラクターを担当していた先輩の後継で指名されました。資格を持っていたので、声がかかったそうです。インストラクターになると、仕事の世界が一変しました。それまでは自分の店舗しか知らなかったのが、外に出て、より多くの人と関わり、仕事への意識が次第に変わっていきました。
プリンス名古屋には優秀な先輩整備士がたくさんいるのですが、どんな優れた整備士も努力せずにできる人はいないんだということも知りました。たとえばクルマの故障診断ひとつでも、マニュアル通りの診断で終わりにはせず、さらに深くアプローチして、メカニズムから原因を探ったりする。真のプロフェッショナルになるためには、"意識と努力"が不可欠であることを、先輩の後ろ姿から学びました。マスターテクニシャンを目指そうと決めたのも、それがきっかけです」
目標を定めた木村さんは強かった。マスターテクニシャンの資格の中でも最も難しいとされる国家1級整備士の資格も1回でパスする。しかし、最後まで手こずった資格がある。お客さま対応の力を問われるテクニカルアドバイザー1級だ。
「人見知りで、人と話をするのはあまり得意ではありませんでした。整備がしたくて日産に入ったんだからと、心のどこかで言い訳をしながら、後回しにしていたのです。しかし、インストラクターになったときに、先輩や上司から背中をぐいぐい押されて、気持ちが切り替わりました。周りに助けてもらいながら練習を繰り返し、その山を乗り越えると、不思議と苦手と思っていた接客も次第に気にならなくなって。人は変われるものだと、身をもって知りました。」
仕事場では後輩に厳しく接するという木村さんだが、自分の存在がいい刺激になってくれればと願っている。
「自分は多くの先輩整備士との出会いによって変わることができました。私が先輩のおかげでさまざまな分野の仕事に取り組んでいきたいと思えたように、今度は立ち止まる後輩の背中を押せるような、いい影響を与えたいと思っています」
マスターテクニシャンを取得し、整備士としても充実した時間を過ごしている。
「整備士は努力と経験を重ねることで引き出しが増え、その数が多ければ多いほど、より素早い診断や的確な整備ができます。 そして、いい整備とは、決して技術だけではありません。クルマで何か音がするというとき、お客さまは何の音か分からないから不安なのか、音が鳴るから直したいのか、その微妙な思いを受け止めて整備に生かすこと。それが本当にいい整備なのだと思っています」
木村さんが入社した当時と今とでは、整備士に求められるものも随分と変化してきた。
「今、整備士に求められているのは、整備だけではありません。整備して、その内容をお客さまにご説明して安心していただくこと。たとえば整備が100点だったとしても、説明が50点だったらお客さまは納得されないと思うのです。クルマをお預かりしてから、お客さまのもとに安心とともにお返しするまで、トータルで100点でなくてはなりません。クルマの先にいるお客さまを常にイメージして、最後にご満足いただけるかどうかを大切にしています」
接客が苦手な木村さん、というのはもう昔の話。今はお客さまとの店頭でのやりとりにもやりがいを感じている。最後に木村さんの今後の目標について聞いた。
「正直にお話すると、私は整備の一番を目指してはいません。いずれはテクニカルアドバイザーも経験して、整備も接客もバランスよく、すべて高いレベルでこなせるようになりたいと思っています。目指すのは、どんな仕事も安心して任せられるオールラウンダーです」
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