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知識派の整備士

バトンをつないで

整備振興会で開かれる国家整備士試験の講義がある。新潟日産の長岡店ではこの講師役を代々受け持ってきた。今そのバトンを持つのが栗山さんだ。

「整備の検定試験を受ける人を対象に、年に3回ほど開催される講義を先輩から受け継いで、もう5年になりました。受講者は日産以外の整備工場などで働いている人で、いろんなメーカーから集まった10人くらいが講師を分担しています。

私は整備の資料や解説書をずっと読んでいます。知識を得る楽しさから離れられない。講義は整備の技術を高めるための資格試験のお手伝いですが、そういう面も伝わるといいと思っています」

すべての始まりは「なぜ」

栗山さんの話を聞くと、今まであまりイメージのなかった机上で熱心に勉強する整備士の姿が浮かぶ。彼は「疑問ばかり出てきてしまって、整備士になった」と語った。

「昔から、機械が好きでした。クルマは、そのかっこよさよりも、機械としての仕組みに興味があったんです。『クルマはなぜ走るのか』という素朴すぎる疑問がわいたのが最初でした。整備士になってからも、『マニュアル車はエンストするのに、オートマ車がエンストしないのは、なぜ?』、『エンジンは回っているのに、クルマを停止できるのはなぜ?』。わいてくる疑問を本で調べるたびに、クルマの基本となる仕組みにはまっていきました」

機械ものを前にしたとき、先に操作し始めるタイプと、説明書を読んでから使うタイプがいる。栗山さんは後者だ。彼の愛読書は驚くほど分厚い新型車解説書。これを開くとワクワクすると話す。

「幼い頃、新しいおもちゃをもらうと、自分が説明書を読んでいる間に、隣で兄が遊び始めているなんてことがよくありました。取扱説明書は、あんまり読んでもらえないものですよね。携帯電話などの身近なものは、新しい機種でも読まずに使い始めるから、最後まで知らない機能があることも。クルマの場合も座れば運転できて、このスイッチはなんだろうと触るところから始める人が多いんです。

でも、説明書を読まないと気づかないような小さな機能もあります。それを見つけると、こんなところにと思える場所に力を注いだ開発者の物語が垣間見えて、思わずため息が漏れるんです。新型車解説書には、『開発のねらい』という項目があって、そこは何度も読み返しますね」

日産テクニカルスタッフ1級を受検する際に会社から贈られたテスター。組み立てるキットで、改良を加え、今も使用している

想像力

栗山さんは整備士歴20年を迎える。経験も勘も備わっている彼が解説書を読み込む理由はどこにあるのか。

「不具合の原因の発見方法も、修理の方法も多種多様にあります。その感覚は経験で身に付きます。そのために実際のクルマを見るのはもちろん必要。しかし、現物だけ見ていても、わからないことばかりですよ。修理の技術は、仕組みとその正常な状態をどれだけ知っているかということにかかっています。そのすべてが載っているのが解説書です。

とはいえ、整備の手順、修理の方法が解説書にすべて載っているわけではありません。前例のない難しい故障の原因を探るのは、仕組みと条件と不具合の可能性をひとつずつ合わせていくことの繰り返しになります。仕組みを考えて、それに不具合を合わせていく想像力が必要です。私たち整備士はお客さまからお話を聞いたときから、その想像力を駆使して、原因の可能性を探り始めます。

そうやって修理した内容は、クルマの開発部署に集められていきます。それを提出していくのも私たち整備士の仕事。そうやって、日産には強くて性能のいいクルマがつくられてきました。その一端を担うために、私は最新技術についていくんです」

撮影をしながらも、栗山さんは「このクルマはね」と分厚い資料を開いて見せてくれる。電気自動車の改良や機能の流行の話も次々と出てくる。今後、世に生まれる新型車の解説書を1ページずつめくりながらうなずく彼の顔が想像できた。

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