2012年夏、ニュースで大きく報道された宇治の水害。その被害にあったクルマが整備工場に入っていた。一見新車同様のそのクルマに、南さんの顔も曇る。
「水害にあったクルマは、今は問題がなくても、時間が経ってから、浸水した影響が出てしまうこともあります。中の部品を全部外してきれいにしても、泥の臭いが残ったり。配線をつたって内側に水が入って、後々コンピュータがダメになったり。いつどこで、何が起こるかわからないので、できるだけ乗り替えをおすすめします。
けれど、新車同然の愛車を手放してしまうことはなかなかできないですから。その気持ちをくみ取り、私たちはベストを尽くして対応します。正しい答えだけでは、修理できないものもあるんです」
南さんの配慮は、大きな故障のあるクルマだけではない。日頃、お客さまに会うときにも、気をつけていることがある。
「メンテプロパックを利用されるお客さまが多いので、半年に一度はお会いできます。その点検のときに、必ず部品の寿命をはかる。次回、交換した方がいい部品とお見積りの話ができます。予定がわかると安心ですし、検討する時間をお客さまにつくっていただくためでもあります。
また、整備結果説明の言葉は慎重に選びます。女性のお客さまが多いので、難しい話になってしまうと、説明を聞いていただけないこともあります。信頼しておまかせいただいたとしても、理解して、納得していただきたいんです。
例えば、どうしてタイヤのローテーションをするか。前輪駆動のクルマは前のタイヤが減ってくる。だから、1年に一度はローテーションして長く使えるようにする。理由まで知っていただくことで、さらに愛車を大事にしていただけると思います
整備工場には、新型車が入庫されることもあれば、往年のオールドカーが入ることもある。
「どうしても、古いクルマを触れる人間は減りますね。十数年前のクルマを触ったことがあるような熟練した整備士は少なくなってきています。
古いクルマを大事に乗られているお客さまのために、 私のように整備士として、長くこの仕事に携わってきた者の経験が求められます」
一方で、新しい技術を搭載したクルマもどんどん出てくる。電気自動車の日産リーフはいい例だろう。
「次々に勉強していかないと追いつきません。電気自動車の資格もすぐに取りに行きました。やはり最新の技術は、イチから学ばないといけません。しかし、勉強は苦ではないです。 新しいクルマを見れば、興味がわいて知りたくなるんです。昔のクルマと違うところは、点検する箇所が少なくなってきたことでしょうか。モノが丈夫になってきたので、定期交換部品が減っています。例えば、ベルトは3本かかっていたのが今は1本に。 オイルも信頼性が上がってロングライフになってきました。その分、快適性を求める機能が増えています。車内で過ごす時間をいかに快適にするか、そういった視点も必要になりましたね」
南さんは、難関の資格をすべてストレートでものにしている。この驚くべき快挙の裏側を聞くと、『小さい頃に生まれた興味が何十年も続いてしまって』と語ってくれた。
「私が最初にクルマを好きになったのは、小学生のときでした。夏休みの自由研究のために行った図書館で、クルマを細かく分解した図が載っている本を見たんです。細部まで詳しく解説された本を読んで、虜になりました。クルマの中身に。普通なら、クルマの外観やスピードに興味がわきそうですが、構造が気になってしまって。構造を理解する。これは整備技術の要になります。機械の断面図を見て、ココがダメになったら、どうなるか。構造さえ理解すれば、わかることなんです。部品のつながりに興味があるから、調べるし、勉強します。それが今でも続いているんです」
南さんの整備士歴は20年。話をうかがう中で、『好きだから』というフレーズが幾度となく出てきた。整備が好きだから続くし、勉強も苦にならない。彼を動かす整備への情熱がそこにある。
「好きな整備をするためにこの仕事に就きました。整備が好きなんです。そして、好きなことをずっとやっていくために、好きでいる努力をしています。
今後、体力のいる仕事にどれだけ身体がついていけるのか、進化するクルマにどこまでついていけるのか、わかりません。けれど、現状に落ちついてしまうことにこだわらず、新しいステージにどんどん進んでいきたいと思っています」
大人が語る『好きだから』という言葉には重みがある。それが、彼の整備人生を前へ前へと押しやっていく。
西大路店へご来店の際は、整備工場へもお越しください。愛車を見ながら、クルマの話をしましょう。