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写真左
日産プリンス名古屋販売株式会社
大府店テクニカルスタッフ神谷 幸太郎
中学生の頃から「スーパーGT」に憧れ、鈴鹿サーキットにも足しげく通うように。その後、「機械を触ること」に興味を持ち、自動車整備の道へ進む。日産2級整備士、日産4級テクニカルアドバイザー、国家1級自動車整備士。
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写真中央
日産プリンス名古屋販売株式会社
高蔵寺店 工場長山田 祐
18歳の頃、「日産のセダン」と出会ってから大の車好きとなり、その後、自動車整備の道へ。現在も、20歳の頃に購入した平成3年式日産グロリアを所有中。日産1級整備士、日産1級テクニカルアドバイザー、国家1級自動車整備士、マスターテクニシャンHITEQ。
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写真右
日産プリンス名古屋販売株式会社
日産自動車国内サービス部出向岡 正樹
少年時代、ツナギ姿でさっそうと出勤する伯父の姿に憧れ、自動車整備士を志す。現在は日産自動車国内サービス部にて、さまざまな自動車整備の難題に対応している。日産1級整備士、日産1級テクニカルアドバイザー、国家1級自動車整備士、マスターテクニシャンHITEQ。
全国から精鋭な整備士が集結し、
技術を競う熱き大会
全国日産サービス技術大会。
2年に一度、全国の日産販売店で働いている整備士たちが集い、「サービス技術」の頂点を目指して競い合う。
1966年から続いているこの大会は、全国のテクニカルアドバイザー(TA)とテクニカルスタッフ(TS)が、応対技術と整備技術それぞれについて競い合う。直近の2017年大会では全国9会場で開催されたブロック大会を勝ち抜いた50社104名の選抜選手が、神奈川県横浜市の日産教育センターにて「最終決戦」を行った。
そのチーム部門で見事優勝を果たしたメンバーに、大会に出場する意義や、
培われた日産の技術について話を聞いた。
日頃の成果を競い合う機会をつくることで、上質なサービスの維持につなげています。
ライター/インタビュアー = 谷津正行
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クルマの整備は、団体戦。
チームの力量がシビアに問われる岡 正樹、30歳。この年齢にして日産テクニカルスタッフの最上位の称号「マスターテクニシャンHITEQ」を取得し、入社4年目に初出場した全国大会でも新人TS(テクニカルスタッフ)部門で個人優勝を果たした。
「でもそのとき、チームとしては勝てませんでした」
悔しそうに岡は言う。
「新人TS部門でわたしが勝てたのは、私の力というよりも日産プリンス名古屋という会社と、そこで働いていらっしゃった諸先輩の技術と知識が私に伝承されたからこそです。それに、私個人が優勝したところでさほどの意味はありません。チームとして、日本一にならなければいけません」
そうだろうか? クルマを確実に整備するためには「卓越した個人」が複数人いれば済むという見方もあるとは思うが。
「それは誤解ですね」
岡は言いきる。
「1台だけを整備するならさておき、日常的に複数のお客さまからおクルマの入庫があります。それらすべてに対応する自動車整備という仕事は、間違いなく団体戦です。チームとして機能していなければ、すべてのお客さまに本当の安心と満足を提供することはできません」
今度こそ、チームとして日本一に――との想いを胸に、岡は他の選抜選手とともに1カ月半に及ぶ「特訓」を開始した。
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「基礎、基本」を徹底し、
最新技術への対応力を深める研修所での実技トレーニングで徹底的に取り組んだのは、あくまでも「基礎、基本」だったと、岡は言う。
「これは新人時代に大先輩から言われ、今では私の座右の銘にもなっているのですが、『基礎、基本ができない奴に応用はできない』ということです」
応用の前に、まずは基礎だと。
「はい。その車種にピンポイントで生じる現象を追うのではなく、『クルマという機械はそもそもこうだから、こうなる』という基本から物事を考え、そしてネジの締め方ひとつにいたるまで基礎にこだわる。そのうえで、現代のクルマに使われている最新技術への対応力を高めていくことで、初めて我々はお客さまに“安心”をお届けできるのだと考えています」
そこで岡はいったん言葉を区切り、そして続けた。
「逆に言うと、われわれがお客さまにご提供できるものって、突き詰めればそれだけなんです。とにかく安全に走り、安全に曲がり、そして安全に止まるクルマをご提供する。そういった普通のことがごく普通に行われるために日々学び、そして働くのがわれわれ整備士の存在意義であり、喜びです」
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正確な故障診断を、
素早く行うことの難しさ「いわゆる試験勉強で得た知識は、現実では役立たない場合もあるかと思います。ですがサービス技術大会のために行ったトレーニングは非常に実戦的でした。毎日の仕事にダイレクトに役立っていますね」
そう語るのは新人TS(テクニカルスタッフ)部門に出場し、チーム優勝に貢献した入社5年目の神谷幸太郎だ。
「大会前のトレーニングで技術的な整備の基礎をこれでもかというほど学び直し、最新のクルマに使われている電子機器なども徹底的に研究できたことで、現場での故障診断のスピードは確実に上がりました」
多くの部分が電子機器で制御されている現代のクルマを整備する際、日産では最新鋭の電子診断機を利用する。専門知識を持った整備士がそれを利用すれば、故障原因はたちどころに判明するはず…と思うかもしれない。
「でも、実際はそう簡単ではありません。診断機を使うにしても、当てるべき順番を正しく守り、診断項目を規定通りに診断していかなければ正しい結果を得られません。部品交換などの作業スピードは、新人であっても慣れてくれば整然と上がっていきますが、『正しい故障診断を素早く行う』のは難しいことです。この大会をきっかけに、その速度と精度が大幅に上がったことが、自分でも嬉しく思っています」
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お客さまとコミュニケーションする
ことで、
診断の精度と速度は上がるまた神谷は、大会前の1カ月半で膨大な数と種類の整備資料を読み込んだことで、精神面での成長も果たしたという。
「以前から心がけていたことではありますが、お客さまとのコミュニケーションの必要性に気づかされました。
故障診断というのは、ただ車両の各部を見て診断機を当てれば良いというものではありません。同じ不具合でも、どこをどのように走っていたときに、どういう症状が出たのか、ということをお客さまから詳しくお伺いできたほうが、診断の精度と速度は格段にアップします。
大会へのトレーニングを経て確かな自信が得られたからでしょうか、そういったコミュニケーションが、以前よりは上手になった気がしますね」同時に、整備完了後の説明能力も上がったという。
「どんな分野でもそうだと思いますが、専門的なことをわかりやすく説明するためには、説明する側が深く正しい知識を持っていなければなりません。大会前よりも、お客さまへのご説明はより深く、しかしより平易な言葉でお伝えできるようになった実感があります」
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電子機器と機械構造の
双方に精通している日産の整備士全国大会後に工場長に昇進した山田 祐。管理職ではあるが、先の大会ではTA(テクニカルアドバイザー)部門に選手として出場し、チームの優勝に大きく貢献した。そんな山田から見た「日産整備士の技術」とは?
「昔から言われる『技術の日産』という部分に引かれて入社する者が多いからでしょうか、ひいき目ではなく、皆が日頃から高度な技術の取得を志しているように見えますね」
お客さまから長年信用され続けたTAらしいやわらかな笑顔で、山田はそう語る。
「正直、今の日産車の大部分は『日産の整備士に任せるほかない』と思います」
それはどういうことか?
「昔のクルマは、機械構造の基本さえ知っていれば誰でも触ることはできました。しかし今のクルマは電子機器の集合体です。そういったクルマに対しては、専用の電子診断機と最新の専門知識がないことには正直何もできません。
そのうえで従来のエンジンや駆動系などの機械構造も熟知していなければなりません。その両方に精通しているのが、われわれ日産の整備士なのです」 -
お客さまと整備士をつなげる、
TAという仕事今は工場長という立場だが、山田は最上位の称号「マスターテクニシャンHITEQ」を取得しているベテランTA(テクニカルアドバイザー)でもある。
「TAは、お客さまと整備士との橋渡し役です。お客さまのご要望を明確に把握し、その内容を工場側へ正確に伝え、そしてお客さまにおクルマをお戻しするまでの全工程がスムーズにいくようマネジメントします。」
様々な現場で経験を積んだ山田は、接客にあたって特に大切にしていることがある。
「『常に即答できること』を大切にしています。一例ですが、ご来店されたお客さまが日産の技術についてご質問されたとします。そのときに、もしも私がそれについて最新の知識を持っておらず、『確認しますので少々お待ちください』などと言って整備マニュアルを読み始めたら、お客さまはどう思うでしょうか?」
不安……のひと言かも。
「ですよね。そういった意味で、TAには日産車の最新情報を常に把握していることが求められます。私自身、工場長という立場になった今でも3年間の有効期限資格HITEQマスターの更新試験を受けています。新技術を学び、そして自身の技術力低下を防いで、常にお客さまの前に立てる心構えは持ち続けていたいですね」
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大会で学んだすべてのことが、
財産になっている全国日産サービス技術大会にチャレンジしたことで、3人は何を得たのだろうか?
「『この世に無駄な努力はない』という実感でしょうか」
そう語るのは岡 正樹。
「もしも大会のことだけを考えたなら、私たちがやったことの大半は無駄に思えるかもしれません。何百ページもの整備マニュアルを精読しましたが、問題に出るのはその中のごく一部です。そして実技も何百時間かけて特訓しましたが、競技時間はわずか60分です。
けれども、その経験は整備士としては、まったく無駄ではありませんでした。大会に出るからこそ学んだことのすべてが、私たちの 貴重な“財産”になったのですから」新人TS部門に出場した神谷も言う。
「新人ゆえに浅いレベルでしか理解していなかった部分が、深く理解できたと自信を持って言えるようになりました」
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「日産の車を買って本当に良かった」と
思っていただくために大会を通して得られるものは大きいと、山田も実感を込めて語る。
「岡が言う“整備士としての財産”をわれわれが下の世代へしっかり伝えることによって、われわれ日産プリンス名古屋販売はもっともっと強い販売会社になれます。そして弊社だけに限らず、すべての日産整備士がそれぞれの技術力と応対力をより一層向上させていけば、それは必ずお客さまから見て『より魅力的な日産のクルマ』を形作るはずです。
われわれが大会に出たのは、自動車整備士としてのプライドの部分ももちろんあります。しかしまず何よりもお客さまにご満足いただくため、『日産のクルマを買って本当に良かった!』と心の底から思っていただくため、これからも変わらぬ研鑽、いや今まで以上の研鑽を続けていきたいと思っています」