日産自動車(株)車体実験部安全実験課
岡本 龍正、 鵜川 智
「交通戦争」という言葉が使われてから久しいが、ここ数年、交通事故死者が年間1万人を越えたことで、交通事故における被害をいかに減らしていくかということが、再び注目され始めている。交通事故を減らしていく上では、人、車、環境という一要素での対応が不可欠であるが、特にここでは、側面衝突について進められてきているいる研究と、標準化の状況を紹介したい。
自動車に関する交通事故を衝突形態別に分類してみると、世界各国とも前面衝突が最も多く、ついで迫突事故となっており、側面衝突事故は比較的少なく、日本もこの例外ではない。しかし、自動車の乗員の交通事故死亡者を衝突形態別の分類でみると、側面衝突による比率は増加してくる。ちなみに米国の事例では衝突によるものは全体の約3割とかなりの量にのぼっている。
これは、前面衝突、追突の場合については、車体の構造上、その前後の部分で衝突エネルギーを吸収するような構造が採用できるのに対し、側面衝突については、衝突エネルギーを吸収していくべき部分が少なく、いかに中の乗員の被害を低減していくのか、技術的にも難しい課題となってきていることを示している。
この問題に対しては、傷害低減のための研究を、わが国を含め世界各国で長年にわたり進めてきている。これらの研究をもとに、試験方法、評価方法について、国際的な標準化を図るため、ISO/TC22/SC10およびSC12の下の各ワーキンググループで論議がなされている。
この試験方法、評価方法については、大別すると以下の二つの方法で代表される。
実際の市場で発生するような典型的な側面衝突事故を、できるだけそのままの形で再現させて、評価しようとするもの。
現在は試験方法としては、米国ですでに基準化された米国方式、欧州から提案されISOで論議を進めてきている欧州方式の2種類がある。大きな違いは、米国方式は、時速24km/hで走行している車両に時速48km/hの車両がぶつかるという、両車走行の形態を模擬しているため、欧州方式に較べ角度がついた衝突形態となっている。また、市場の平均的な車両の違いから、衝突車を代表する台車の重量、剛性、形状が異なっているほか、さらには、被衝突車の中に乗せる人体模型(ダミー)もさらに改善されたダミーを、欧州方式では検討している。
これらの車両での側面衝突試験では、このダミーに発生する加速度や、胸部の変形量などを傷害程度を表わす指標として計測している。また、これらの指標が実際の人体の傷害、損傷程度をどの程度表わすのかを確かめる、生体工学的な研究も並行して行われている。
現在の、これらの実車側面衝突試験方法の課題としては、以下のものがあり、各ワーキンググループで検討が進められている。
側面衝突現象を、衝突車の変形特性、側面ドア部の変形特性、室内の内装材の変形特性、車両構造部分の変形特性、乗員の生体工学的特性と各々の要素に分け、スタティックな荷重変形特性を求め、これを複数ます複数ばねの連成運動として数学的に解き、評価する手法で実車衝突テストの代替え試験として, ISO/SC10/WG1で同じく論議されている。
評価する値は、上記車両での側面衝突試験法と同様に、乗員に発生する加速度や、胸部の変形量などになるが、あくまでも各部分特性に基づき数学的に解かれた値で評価する。
このCTP試験方法の特徴としては、以下の点がある。
このCTP試験で得られた結果と、実車試験の結果を比較すると図5〜図6になる。現在ではさらにもう一歩進んだCTP試験方法として、刻一刻の各部分の荷重変形特性をコンピュータで計算して、各部分の負荷条件にフィードバックしてより実際の現象に近づけるComputer-Controlled-CTPという方法も試みられている。
しかし、いずれの場合も、CTP試験方法として今後見極めていかねばならない、次のような課題がある。
以上のように、側面衝突試験方法の標準化は試験方法開発の研究を初めとして、ダミーの開発のための研究にいたるまで、広範囲にわたっており、各国の研究成果をもとに活発に論議がされている。本稿では充分紹介しつくせぬ面があり、多少物足りないものとなったことを、お許し頂きたい。