土屋さんの語りには嘘や誇張がなく、一つひとつの事柄を誠実に話す。職人という言葉がふさわしい。そんな彼が整備士になったのは1982年、『日産の人』になって今年で30年を迎える。
「多くの人に愛されたスカイラインR30の時代。私にとって憧れのクルマであり、それで日産の整備士になりたいと思ったんです。飛び込んだ世界は毎日が勉強でした。昔はエンジンを一度分解して、部品交換の後に組み立てなおすという修理をしていました。バラバラに分解されて単なる部品になったものを、また走らせる。これは、感動しますよ。大好きな世界です」
7年前にフロントに異動になり、そこから少しずつ本部の仕事へとうつっていく。土屋さんの仕事は、整備士としてクルマと向き合うものから、若手整備士を育てるものへと変わっていった。
「正直なところ、整備服を脱いだときは心残りでいっぱいでした。職人気質なのでしょうか。私にとって、機械に向かう時間は大切でしたから。しかし、異動によって、フロントでお客さまにお会いしたり、若手の教育をしたりと仕事の幅が広がり、多くの人に出会うことでいろんなことが見えてきたんです」
現在、土屋さんは整備士の教育を担当。資格取得のサポートや新車の勉強会など、最新技術に触れ続けている。
「資格試験に向けて若手は非常に頑張っています。夜中まで練習する彼らに付き合って一緒に勉強したり、データを見たり。試験は、不具合を作った実車を整備士が診断機にかけて、データを読んで不具合を発見していく問題が出るので、練習問題を私が作ります。不具合を起こした状態を作るのは、かなり知識が必要です。問題を解く以上に勉強をしていないと問題は作れませんし、教えられないんです。そうやって指導した後輩が受かるのはうれしい。私もがんばらなくては、とさらなる決意が生まれます」
継続には思う以上の努力と信念がいる。土屋さんは技術の勉強を毎日続けている。
「試験のサポートや問い合わせに100%応えようと思うと、120%を目指さないといけない。今、クルマは日々進化しています。毎日知識をつけていかないと、遅れてしまうんです。ですから、少しでも時間を見つけて勉強していますね。昼休みは整備要領書を見るのが日課。机に向かっての勉強は帰宅してから、毎日1時間やります。ときに30分になってしまうこともありますが、ほんの少しでも。そのほんの少しを大切にしています。自分が勉強したことがいろんなところへつながり、役に立っているはずですから」
機械いじりが好きで、勉強も苦にならなかった。それでも、30年の仕事人生の中ではやめてしまおうと思うときが何度もあった、と土屋さんは語る。
「実は国家1級整備士の資格を取るのに、3年かかりました。すべて独学で取ったので、非常に苦労しました。出題範囲が広いうえに、どこのメーカーのクルマが問題になるかわかりません。学科は1回で受かったのですが、実技がなかなかうまくいかない。3年目で取れなかったら、整備士をやめようと思いました。焦燥感もあり、もう向いていないんじゃないかと。けれど受かった後に、繰り返し努力していれば、必ず道は開けるんだと思い直したんです。くじけないでやっていれば、成果は出るんじゃないでしょうか。一度では、そう簡単にうまくいかない。だから、若手にはいつだってあきらめないでいてほしいと思っています」
後輩に追い越されたくないプライドかもしれない。そう微笑んだ土屋さんはマスターテクニシャン制度がスタートして5年間、途切れることなく資格更新を達成している。物静かな彼の言葉の奥には、職人としての誇りと熱があふれている。
日々成長する整備士たちが、皆さまをお待ちしております。クルマのメンテナンス技術は私が強力にバックアップします!