INSIDE-02 R390GT1Logo ISSUED :1997.5.28
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REVICED:1997.5.31
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[ INSIDE OF R390 ]
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熟成の進んだエンジン
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engine photo1  R390GT1に搭載されたエンジンはVRH35Lという。レースに詳しい方はこのエンジン名を聞いてピンとくるに違いない。そう、1990年のルマンではポールポジションを獲得した(残念ながら本戦では今回のR390の設計を行ったトニーサウスゲートが設計したジャガーに惜しくも力及ばなかった)R90CPに搭載されたVRH35Z直系のエンジンなのである。90年のルマンの後、翌々年のデイトナ24時間レースでは初優勝。しかし、93年からはJSPCの終焉もあり、V8エンジンでのレース参戦を中断していたものの近い将来での復活を目指し、開発だけは継続してきたのである。
 R390の開発期間は常識では考えられないほど短かったが、シェイクダウンテストとなったエストリルで「扱いやすい上にパワーも十分」と各ドライバーから最大の賛辞を得、さらに予備予選でのポールポジション獲得、という快挙の裏にはこの熟成の進んだエンジンを抜きにしては語れないといってよいだろう。

 年R390GT1の開発が始まった際、搭載エンジンにはいくつかの選択肢が存在した。一つ目は95年、96年にルマンに参戦実績のある直列6気筒RB26DETT、二つ目がグループCカー以来、将来のレースエンジンの中核として進化させてきたV8エンジン、そして三つ目が全く新規のエンジン開発を行うというものであった。

engine photo2  求される開発期間の短さから、すぐ、3番目の選択肢は落とされたが、エンジンの最大出力が、リストリクターで制限されるレギュレーションの元では同等の出力素性を有するRBとV8エンジンの選択には、逡巡を極めた。しかし、最終的にV8エンジンが選ばれた理由としては次の3点が挙げられる。

  • エンジンをシャシーのストレスメンバーとして使用する現代のレーシングカーにおいては全長が短く断面積の大きいV8エンジンの方が高いシャシー剛性を効率良く得ることが可能である。
  • 全長の短いV8は車両のZ軸回りのモーメントが小さく、回頭性を中心とする車両の運動性能向上に貢献する。
  • VRH35のシリンダーブロックがアルミ製であるのに対し、RB26DETTは鋳鉄製。その差は20kg。車体剛性向上等に浮いた重量を使うことも可能である。
 VRH35LはVRH35Zをベースとし、VRH35Zが活躍していた頃のレギュレーションでは重要であった燃費規制に替わり、リストリクターによる空気の流入量規制がポイントとなる今回の再設計にあたっては、燃焼効率を高め、燃焼圧力増加に伴う吸気、排気系、主運動系、冷却系に設計変更の手が加えられている。

 24時間という長時間の耐久レース。出力特性と同じくらい、いやより以上に信頼性、耐久性は重要かもしれない。既に、サルテサーキットでの走行条件をシミュレートしたコンピュータ制御のエンジンテスト機(その模様はテレビCMでご覧になった方も多いことだろう)で30時間の連続試験を終了しているが、実車での耐久信頼性開発はレース直前まで続くことになるのである。