1. まえがき
エアバッグシステムは多くの部品から成り立っているが、基本的には、センサ、インフレータ、バッグ、回転コネクタ(運転席側のみ)、コントロールユニットから構成されている。車両の衝突による衝撃を感知したセンサからの信号がコントロールユニットを経由して、インフレータ(ガス発生装置)を点火させ、発生したガスにより瞬時にバッグをふくらませる(図-1)。
運転席側のエアバッグの展開の様子の模式図を示す(図-2)。センサが衝突を感知すると同時にガス発生装置に着火、約0.03秒後にはエアバッグがふくらみきり、乗員を受けとめエネルギを吸収し、収縮する。車両の衝突から着火、収縮までは約0.2秒以内(瞬き1回以下の時間)で完了する。
2.2 エアバッグの役割
現在、各社からエアバッグを装備した車が発売されているが、いずれもエアバッグはシートベルトの補助拘束装置(Supplemental Restraint System=SRS)としてのコンセプトを持っており、シートベルトを着用した乗員に対してその効果を最大限に発揮するものである。つまり、車両の衝突時、シートベルトを着用した乗員の2次衝突(車両の衝突を1次衝突と呼ぶのに対し、乗員自身の身体がステアリング、インストルメントパネル、フロントガラスなどと衝突すること)によって頭部に加わる衝撃を緩和することを目的とした装置である。ハンドルやインストルメントパネルに取り付けられたエアバッグの効果は前面衝突に対して大きな効果を発揮するが、側面、後面衝突やロールオーバに対しては有効ではない。これは、事故時に乗員が移動する方向にエアバッグ(衝撃吸収装置)がないからである。また、上述のように約0.2秒で展開を終了してしまうため、多重衝突事故などでの2回目以降の衝突に対しては効果がない。したがって、シートベルトの装置が安全上重要なことであるのだが、エアバッグは万能というイメージが強く、ユーザーがエアバッグに対して過大な期待(エアバッグが装着されているのだからベルトをしなくても安全だなど)を抱いてしまう恐れがあり、各自動車会社ともシートベルトの着用を強く勧めている。
2.3 エアバッグの作動条件
エアバッグは上述のように車両前面方向からの衝突形態のみに対して効果を発揮する。したがって、センサのセッティング(センサ位置や感度など)もそれに沿ったものとなっている。エアバッグの作動範囲の概念図を図-3に示す。また、作動する衝突速度も、事故分析の結果から実際に傷害の程度が大きくなる対壁換算速度(固定した壁に対して正面から衝突するときの速度)約20Km以上としているのが一般的である。
2.4 エアバッグシステムの特異性
エアバッグシステムには、他の車載システムと大きく異なる特徴点がある。第一の特徴として、電気系統以外は機能チェックができないシステムであるということがあげられる。システム内の電気的な部分、つまりセンサやケーブルなどの電気系統の断線やショートなどは常時モニタ(故障診断)しており、問題が発生すれば警告灯により運転車に知らせる。しかし、インフレータ内のガス発生剤(化薬品)のトラブルやバッグ(織物)の破れなどは予見することができず、また、試しに作動させるなどして、その機能を確認(たとえばブレーキテストのように)することもできない。そのためエアバッグシステムは設計上および製造上高い信頼性が要求される。
それでも万が一不測の事態でバッグが展開しても、運転操作などに重大な支障をきたさないように以下に示すような工夫を折り込んである。(1)バッグの展開形状をコントロール(バッグ内部に設定したつりひもやバッグの大きさで)することにより、不意の展開時にバッグが乗員に強い衝撃を与えないようにしている。(2)バッグに設定した排気穴からガスを抜くことによりバッグをしぼませ、視界を確保する。(3)バッグ展開時の車室内の音圧により鼓膜などへ影響がないことを確認してある。(4)排気ガスの大部分が窒素で、残りの成分も人体に影響ないレベルに抑えてある。
また、第二の特徴はエアバッグが金属はもとより、樹脂、電気・電子部品、布地、そして化薬品と一つの部品のなかに幅広い分野の技術が詰め込まれていることである。そして、それらの技術の組合わせにより目標とする機能、性能を満足させている。
第三の特徴点としては、使われるのはいざというとき1回だけで、しかも車の生涯にわたって一度も使われない可能性のほうが高いのである。
以上に例を示したように、自動車部品のなかでは他に例を見ない部品である。
3.1 センサがエアバッグユニットと別対配置されている例
本システムはエアバッグユニット(バッグやインフレータ)とセンサユニットが別対となっており、センサを任意の位置に(衝突の衝撃を感知するのに最適な位置)に置くことが可能というメリットがある反面、センサからエアバッグへ信号を伝えるための長いハーネスが必要となる。
日産車を例に構成を説明する(図-4)。車両のフロアトンネル付近に2個のセンサ、すなわち、トンネルセンサとセーフティングセンサが設置されている。これら両方のセンサが同時に作動したときのみ衝突と判断するようになっているので、センサが作動したのと同じモードになる回路上の短絡が2箇所以上で同時に発生しないと、システムの誤作動が発生しない。そして、それらの信号は隣接するコントロールユニットで処理され、各エアバッグに点火信号を送る。また、コントロールユニットはシステム全体の電気系統の異常監視や電源故障に対する補助電源機能も有する。各エアバッグモジュールはコントロールユニットからの作動信号のみにより作動し、エアバッグをふくらませるようになっている。
3.2 センサがエアバッグユニットと同じ場所に配置されている例
この例はエアバッグシステム、すなわち、センサ、インフレータ、バッグなどすべてがステアリングホイールのなかにまとめて搭載されているシステムのこと。センサが衝突を感知すると点火信号を直接インフレータに伝えて着火し、ガスを発生させバッグをふくらませる構造となっている。センサの種類により点火信号を電気的に伝えるタイプと機械的に伝えるタイプがある。センサがハンドル内に設置されているため、ステアリングコラム先端での発生減速度にて車両衝突の判断(展開させるか、させないか)をする必要があるため、センサのチューニングがむずかしくなるなどの技術的課題はあるが、構造が簡単で比較的低コストであることから、最近採用が増えている。
4.1 センサ
センサは車両の衝突を検知するためのもので、大別して全機械式センサ、電気機械式センサ、電子式センサの3タイプがある。
4.2 インフレータ
インフレータはセンサからの信号を受けてガスを発生させるものである。形状的にはおもに運転席側に使われるディスクタイプとおもに助手席側に使われるシリンダタイプに分けられ、また、ガスの発生方法の違いにより、パイロ(推進薬)タイプ、高圧ガスタイプ、そしてそれらを組み合わせたハイブリッドタイプに分類される。
4.3 バッグ
インフレータからのガスにより膨張し、乗員を受け止めるための部品である。したがって、インフレータからのガスによる急激な膨張および乗員が接触してくることによる衝撃にも破れない強度を持ち、乗員を受け止めることを考えると、なるべくソフトな材質である必要がある。
材質は現在は66ナイロンが主流であり、熱からの保護のための表面コーティングは、クロロプレンゴムからシリコンゴムに主流が移っている。さらにノンコート化、布地材料の変更などの開発も進められている。
4.4 回転コネクタ
ステアリングコラムからステアリング内に組み込まれたエアバッグに固定部分から回転部分へ電気信号を伝えるための特殊なコネクタで、衝突時の衝撃などにより瞬断しないことが要求される。スリップリング式とケーブルリール式がある。
エアバッグシステムは、通常自己診断装置により電気系統を常時診断(監視)している。電気系統に故障(異常)を発見すると、計器版上などに設定されたワーニングランプが点灯してユーザーに故障を知らせ修理を促すようにしてある。また、ワーニングランプ自体の故障(球切れ)のチェックのためにイグニッションオンで一度点火し、その後消える仕組みになっているのが通常である。
1)自動車技術:Vol.42,No.10,1988
2)日経メカニカル:自動車の安全技術、1988.5.16
3)交通安全白書:平成4年版
4)Air Bag System for Side Impact Occupant Protection CSE, Inc. Charles Y. Wamerほか:13th ESV 会議論文 No.91-S 5-0-09