前面衝突時乗員が傷害を受けるパターンは、二つに大別できる。
一つは、車体変形が主因となる傷害パターンである。このパターンはオフセット衝突の様に車体の部分的衝突により発生するケースが多くフルラップ衝突に比べ、車体変形が大きいためステアリングやインストルメントパネル等が後退し、二次衝突により傷害を受ける。
他の一つは、車体減速度が影響する受傷パターンである。フルラップ衝突はオフセット衝突より車体変形は少ないが、高い減速度が生じることにより傷害を受ける場合である。この時は拘束装置に高い荷重が発生し乗員移動量が大きくなり、二次衝突により傷害を起こす。また発生した減速度により、乗員が内臓または頚部に傷害を受けるケースも起こる。
車体のクラッシャブル特性は、この二つの受傷パターンに対応して決めなければならない。一般に車体の潰れ反力を上げると車体変形による傷害には有利であるが、車体減速度による傷害には不利となる。この関係の概念は、図1に示すように表わせる。
上記の受傷パターンから車体のクラッシャブル特性を考えると、以下の3項目を満足する必要がある。(図2参照)
次に2.項のクラッシャブル特性を達成する方法を検討する。
まず最初に車体のフロントサイドメンバを強化して反力を上げクラッシャブル特性を満足させる方法を考えてみる。
この方法は日本車の多くおよびBENZで採用されている。一箇所に集中して補強を行うため、構造が明解であり、他性能とバランスをとって、対策を実施することが容易である。
しかし潰れスペースが少ない車ではエネルギー吸収が不足するため、欧州車ではマルチメンバー化と称し、フードリッジ部の強化を図ってきている車もある。
また、フロントサイドメンバを必要以上に強化しすぎた場合に、潰れるのに必要な荷重を受けることができない場合に起こる問題があげられる。たとえば実際の事故ではフロントサイドメンバが相手車に刺さり高い反力を受けないため変形できず、結果としてエンジンコンパートメント部のエネルギー吸収量が不足し、自車の変形が大きくなることがある。これでは狙った特性がだせないばかりでなく、相手車への加害性も問題となる。
上記の説明から分かるように、市場の事故形態を考えた場合(特にオフセット衝突)、なるべく多くの部位で反力を分担し、相手への加害性も減少させて2項のクラッシャブル特性を確保する必要がある。
次にキャビン反力を考える上での条件をあげてみる。
以上の条件をもとに、キャビン反力Rd,Re,Rf,Rs,Rpの分担を決める必要がある。 エンジンコンパートメント部での反力分担としてはエンジンコンパートメント下部のフロントサイドメンバ分が多いため、基本骨格としてはこの反力を分散してキャビンへ伝える構造を考える。
Rm<Re+Rf+Rs一方上屋では、フードリッジ反力に耐えることに加え、キャビン強度にロバスト性を持たせることを考え、衝突形態をいろいろと変えたときの変形量・変形モードをチェックし目標性能を満足するよう反力分担を決定する。手法としてはPAMCRASH、マスバネ解析、静圧壊実験結果の利用などが考えられる。
Rh<Rd+Rp